ストーリー


しとしとと雨が降っている。
どんよりとした曇り空。
幻想郷は梅雨の季節真っ只中であった。

「はぁ、今日も雨かぁ。これで何日連続かしら。
 流石におかしいわよねぇ。」

博麗神社の巫女、博麗霊夢は、
雨粒が石畳を穿つさまを見つめながら、ぼそりと呟いた。

そう、今年の梅雨は長すぎた。
雨は降り止むことなく5週間以上も降り続いていたのだ。
大地はぬかるみ、作物はみな腐ってしまった。
これは立派な、異変たり得る事象である。

「あの時……冬が長すぎた時も原因は上空にあった。
 それなら!」

霊夢は立ち上がり、暗く灰色に染まった空を見据えた。
そして勢いよく飛び立っていった。
目指すは天界の中のひとつ、雨の源泉である。


連日の雨には、普通の魔法使いである霧雨魔理沙も参っていた。

「だー、こう雨ばかり降られちゃ、魔導書がふやけちゃうぜ!
 なんとかならないものかねぇ。」

魔理沙の家にある本は、様々な場所から盗み、
もとい借りてきた、非常に長い年月が経過したものばかりである。
脆くなった紙には過度な湿気は大敵なのだ。

「こうなったら、雨の元凶を蒸発させてやるしかないな!
 これだけ長い期間降り続いているんだ。どうせこいつも異変に違いないぜ!」

魔理沙は家を飛び出した。
向かった先はやはり空の彼方であった。
雨は上から降ってくるものなのだから、
この長すぎる雨の原因もきっと上空にあるに違いない。

根拠はないが、心の赴くままに、
迷うことなく真っすぐに飛行していった。


小人の少名針妙丸は、以前、お世話になっていた博麗神社に遊びに向かっていた。
しかし、針妙丸が神社に辿り着いたと同時に、
入れ替わるように霊夢が上空を目指して飛び立っていったのである。

「あぁ、この長すぎる梅雨の異変を解決しに行ったのか。
 そういえば……」

針妙丸は少し前からある違和感に気づいていた。
そこらへんに落ちている石ころひとつひとつから、
自らが異変を起こしていた時に放出された魔力と同じような、
活性化の類の魔力を感知したのだ。
その魔力は、最初は微弱だったので気づかなかったが、
今でははっきりと存在を認識できるほどに強くなっていた。

「ははん、幻想郷中の石ころが雨石化していたのね。
 そりゃあ、梅雨も長引くわけよ。」

雨石とは、祈願すると雨を降らすことのできる石のことだ。
雨の神に信仰を届ける役割を持った、道具であるともいえる。
つまり、何者かが幻想郷中の石ころを何らかの手段で雨石化させ、
雨乞いの祈りの効果を最大限に増幅させようとしているのだ。
雨石一つ一つの効果は雀の涙ほどの効果だが、
塵も積もればなんとやら、長すぎる梅雨の原因としては充分であった。

「どうれ、久々に私も冒険に出かけるとしようかな。
 お城の中で湿気に耐える日々はもううんざりだわ。」

針妙丸は回収が済んでいた小槌の魔力を使って人間サイズになり、
お椀に乗り込んで、霊夢のあとを追いかけていった。
雨石に最も近い関係にある者に会うために……


内部を常闇が覆っている。
ここに最後に光が差し込んだのはいつのことだったか。
水分は悉く取り払われ、雫の音も、生物の音も存在しない。
その場所は、完全なる静寂に支配されていた。

だが、その静寂は再び差し込む光とともに破られる。
彼女は、二千年ぶりの活躍の機会に心を躍らせていた。

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